「今日もなかなか勉強を始めないな…」
「いつになったら、あの子の“やる気スイッチ”は入るのかしら…」
リビングで遊んでいるお子さんの姿を見て、ため息がこぼれそうになる。塾の宿題は山積み。それなのに、わが子は知らんぷり。
「ねぇ、宿題やったの?」
「早く勉強しなさい!」
良かれと思って声をかけるほど、お子さんの表情は曇り、親子関係までギスギスしてしまう…。
そんな毎日に、あなた自身が疲れ果ててしまうこともありますよね
この記事で分かること
- 「やる気を出しなさい!」が逆効果になる脳科学的な理由
- お子さんが自分から机に向かうようになる、具体的な「3つの仕掛け」
- やる気を監視するのではなく、お子さんの力を引き出す親の本当の役割
実は私が受ける相談の中でもダントツの1位がお子さんのやる気についてです。
ただ、あなたも誤解しているかもしれませんが、中学受験に、”やる気”は必要ないんです。
この記事では、お子さんを「やる気がない子」と決めつける前に、あなたがしてあげられる、ちょっとした働きかけについてお話しします。
これは精神論ではありません。お子さんが自然と机に向かうようになるための、具体的で優しい「仕掛け」作りのお話です。
やる気は“後から”ついてくる。脳科学が教える「やる気スイッチ」の真実
「やる気」は、どこかにある魔法のスイッチのように考えてしまいがちです。
「やる気スイッチ、君のはどこにあるんだろう♪」というCMソング、覚えている方も多いでしょう。
でも私はこの言葉を、中学受験における“最大の落とし穴”だと考えています。
なぜなら、「スイッチさえ入ればやるはず」と思い込んでしまうからです。
スイッチが入らないわが子を見て、焦り、見えないスイッチを探す日々が続きます。
思い出してみてください。
寒い冬の朝、「よし、やるぞ!」と起きることって少ないですよね。
むしろ、「出たくないな…」と思いながらも体を起こし、顔を洗い、服を着ているうちに目が覚めていく。
これが、やる気の正体です。
やる気は、行動した後に生まれる感情。
脳科学では「作業興奮」とも呼ばれますが、要するに「始めたら気分が乗ってくる」状態のことです。
つまり、「やる気がないから勉強できない」のではなく、「まだ始めていないからやる気が出ない」のです。
「やる気を出しなさい!」という声かけは、エンジンのかかっていない車に「もっと走れ!」と言っているようなもの。
お子さんも、どうしていいか分からず、ただプレッシャーを感じているだけかもしれません。
成績が上がらないのは「やる気のせい」?見過ごされている“本当の原因”
- 「最近、ケアレスミスが多いのは、やる気がない証拠だ」
- 「成績が伸び悩んでいるのは、本人のやる気が足りないからだ」
塾の先生からこんな風に言われて、心を痛めた経験はありませんか?
でも、本当にそれだけでしょうか?
「やる気がない」と一括りにしてしまうと、本当の原因が見えなくなることがあります。
たとえば——
- ミスが多いのは、やる気のせいではなく、ミスが少なくなる方法をとっていないからかもしれません。
- 成績が上がらないのは、勉強のやり方がお子さんに合っていないか、苦手な単元が放置されているだけかもしれません
- 集中力が続かないのは、テレビの音が聞こえたり、机の上に漫画が置いてあったりと、集中を邪魔するものがある環境のせいかもしれません。
これらはすべて、「やる気を出せ!」と叱っても解決しませんよね。一つひとつ、本当の原因を探って、丁寧に対処してあげる必要があります。
あなたは、お子さんのやる気を監視する監督ではありません。お子さんが勉強しやすいように環境を整えてあげる、一番のサポーターです。そう思うと、少しだけあなたの役割が明確になってきませんか?
やる気に頼らない!お子さんが勉強を始める「3つの優しい仕掛け」
では、どうすればお子さんは、その「最初の一歩」を踏み出せるのでしょうか。
ここからは、私がこれまでたくさんのご家庭にアドバイスして、特に効果が高かった3つの具体的な方法をご紹介します。
【STEP1】目的をこっそりすり替える「小さなご褒美作戦」
「志望校に合格するため」。これは、お子さんにとってあまりに遠く、大きな目標です。大人が思う以上に、子どもは未来のことより「今」を生きています。
そこで有効なのが、「小さなご褒美」です。
「ご褒美で釣るなんて、教育上よくないんじゃ…」なんて思う必要は全くありません。これは、お子さんの勉強する目的を、遠い未来の合格から、すぐ手の届く楽しみに“すり替えてあげるという、立派な作戦なんです。
ご褒美は、高価なゲームやおもちゃである必要はありません。
むしろ、「この計算ドリルが終わったら、好きなYouTubeを15分見ていいよ」「今日の宿題が終わったら、あなたと一緒にアイスを食べようか」といった、ささやかなもので十分です。
特にお子さんにとって「自由な時間」は最高のプレゼント。「全部終わったら、残りの時間は完全に自由時間!」と決めてあげるだけで、目の色が変わる子もたくさんいますよ。
【STEP2】“自分で選ばせる”が勝ち!「今日のやること会議」
人は不思議なもので、「他人から言われたこと」には反発したくなるけれど、「自分で決めたこと」は守ろうとする気持ちが働きます。この心理を、ごく自然な形で毎日の勉強に取り入れましょう。
やり方は驚くほどシンプルです。
- あなたが「今日やるべきこと」を紙や付箋にリストアップします。
- リストをお子さんに渡して、「今日のやることはこれね。やりやすい順番に、自分で番号を振ってみて」と伝える
たったこれだけでいいんです。
大切なのは、「何をやるか」はあなたが決める。「どう進めるか」はお子さんに任せる。
お子さんがリストに番号を振ることで「これは自分が立てた計画だ」と無意識に認識します。
お子さんがつけた順番に口を出さないことが大切です。
【STEP3】"勉強を習慣化、するシンプルな「開始のルール」
STEP2で計画を立てても、いざ始めようとするとなんとなく腰が重い…。そんな時に効果的なのが、勉強のスタートを「ルール化」してしまうことです。
私たちは毎朝、「顔を洗おうか、どうしようか…」とは悩みませんよね。無意識のうちに体が動いているはずです。それと同じ仕組みを、勉強の開始にも作ってあげましょう。
やることは、「今日の計画(STEP2のリスト)とは別に、勉強のスタートは必ずこれから」というシンプルなルールをお子さんと一緒に決めるだけです。
この「開始のルール」は、5分程度で終わる、あまり頭を使わないものが最適です。例えば、
- 「計算ドリルを1ページやる」
- 「漢字を5個練習する」
- 「社会か理科の一問一答を10問解く」
といったものが良いでしょう。
お子さんと「この中で、どれなら毎日できそう?」と相談して、一つを選びます。そして一度決めたら、気分が乗らない日でも、まずはそのルールから始めることを徹底します。
このルールの良いところは、「今日は何から始めよう…」と考えるエネルギーを使わずに、行動に移れる点です。
いつもの計算問題を解き始めることで、脳は自然と勉強モードに切り替わり、「作業興奮」の状態に入りやすくなります。
この最初の5分が終わる頃には、脳のエンジンも温まっています。そうなれば、STEP2で作った「今日の計画」の1番目にも、ずっと楽な気持ちで取り掛かれるはずです。
日々の計画は柔軟に、でもスタートだけは固定する。このシンプルな「開始のルール」が、お子さんを「考える前に行動できる子」へと導いてくれます。
【体験談】やる気ゼロの私を変えた、母のたった一つの「働きかけ」
偉そうなことを言っていますが、私自身も中学受験生の頃はやる気ゼロでした。塾はさぼりたくて、家ではゲームばかり。
親に「勉強しなさい!」と怒られては、ふてくされていました。
そんなある日、母が言いました。
「計算勝負しようか。どっちが速く解けるか競争ね」
塾から宿題で出ていた計算問題を使い勝負を始めました。
どっちが勝ったかは今はもう忘れてしまいましたが、それから毎日のように母と計算をするのが習慣になりました。
そして不思議なことに、この計算勝負をきっかけに、そのままスムーズに勉強へ入れるようになったのです。
母は、「勉強を始めるきっかけ」をうまく作ってくれていたんですね。
あの勝負がなければ、きっと私はいつまでも机に向かえなかった。大事なのは“やる気”ではなく、勉強を始める最初のきっかけだったのだと、今なら分かります。
勉強するようになった“次”のステップへ
この3つの仕掛けによって、お子さんが少しずつ机に向かう時間が増えてきたら、
次はいよいよ、その努力を「テストの点数」という自信に変えてあげる番です。
もし、「頑張って勉強しているのに、なぜかテスト本番になると点が取れない…」という新たな壁にぶつかった時は、こちらの記事がお役に立ちます。本番で実力を100%発揮するための、具体的な原因と対策を解説しています。
あなたはお子さんの一番のサポーターですまとめ:大切なのはやる気より「仕組み」。
お子さんのやる気が出ないのは、当たり前のこと。どうか、「うちの子はダメだ…」なんて、あなた自身やお子さんを責めないでくださいね。
大切なのは、「やる気を出しなさい!」と感情的に叱ることではなく、お子さんが行動を始めるための「仕組み」や「環境」を、あなたが作ってあげることです。
- 遠い目標より、目の前の「ご褒美」
- 親の命令より、子どもの「自己決定」
- 苦手なことより、得意な「最初の一歩」
今日から、この3つのうち、どれか一つでも試してみていただけませんか?
お子さんの小さな変化に気づけた時、あなたの心も、きっと少し軽くなるはずです。
中学受験は、お子さんだけでなく、あなたにとっても長い戦いです。一人で抱え込まず、時には肩の力を抜いて、お子さんと一緒にゴールを目指していきましょう。心から応援しています。